成熟した肝臓では細胞の分裂増殖はほとんど行なわれていない。しかしこの肝臓を外科的に部分切除すると、残余肝細胞は急速な分裂増殖を開始し、切除前の大きさにまで再生されると分裂を停止する。このような肝再生には表皮増殖因子(EGF)や肝細胞増殖因子(HGF)が重要な働きをしていることが近年報告されているが、分裂の開始および停止の調節機構についてはなお不明な点が多い。我々は部分肝切除後の残余肝細胞の蛋白質を高分解2次元電気泳動法で分析し、現在まで報告のない特異蛋白質を見い出している。この特異蛋白質は2次元電気泳動パターンで見る限りにおいては、肝切除後数時間で出現し、その後徐々に消失した。また開腹だけの擬手術では出現しない事から細胞増殖の調節に何らかの役割を担っている事が示唆される。そこで我々は部分肝切除したラットの残余肝細胞から特異蛋白質を分離し、細胞増殖における役割を明らかにする目的で研究を進めている。本年度はまず特異蛋白質の精製、定量法の確立を主眼において研究し以下の結果を得た。 1.部分肝切除後の残余肝細胞(肝切除後6〜24時間)から特異蛋白質を種々クロマトグラフィー(硫安分画、DEAEーセファロースカラム、ゲル濾過、等電点電気泳動、調製用電気泳動など)によってほぼ均一となるまで精製した。 2.得られた蛋白質をウサギに免疫して抗体を作成した。この抗体は免疫電気泳動ではやや不純な成分との反応が見られるため、正常肝細胞のホモジネートで吸収した抗体を用いて実験した。またこの吸収抗体を使用した定量法もほぼ確立された。 3.現在、得られた特異蛋白質のモノクローナル抗体を作成中である。
|