創傷治癒における線紺芽細胞の動態をしらべるに当たってまず臨床的に典型的な創傷治癒過程を示す肥厚性瘢痕とケロイドについて検討した。肥厚性瘢痕とケロイドは共に線紺芽細胞を主要素とする病変であるが、肥厚線瘢痕では線紺芽細胞の自然消退がみられるのに、ケロイドでは線紺芽細胞は増殖的である。その発生は前者では純粋な創傷治癒過程の一時期であり、後者では創傷治癒過程である場合とそれに無関係な場合とがある。そこで多数の臨床例においてケロイドと肥厚性瘢痕の固体の状況、好発部位、局所条件、病理組織を比較検討した。ケロイドでは、90%以上に両側上腕に毛裏角化症を有し、毛裏角化症を示さない症例では局所多毛症を有していた。またケロイドと肥厚性瘢痕が共存している症例では、ケロイドは硬毛有毛部に生じることが多く、肥厚性瘢痕は硬毛を避けた部位に認められた。一方病理組織ではケロイドでは乳頭層にリンパ管拡張がみられ、ある症例では毛裏を中心に強い炎症状態が確認できた。これらの結果、ケロイドにおける線紺芽細胞の持続的活動は、毛裏成分の何等かの刺激が関与していること、リンパのウッ帯がさらに関与していることが示唆された。現在線紺芽細胞培養により、リンパ液に対するケモタクシス、毛裏成分に対するケモタクシスを検討中であり、ひき続きこれらの検討と、人工的なリンパ筋腫を動物に作成し、線紺芽細胞の動態をしらべる予定である。
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