目的:本研究では、胃癌および大腸癌において、同一組織像を示すにもかかわらず、転位が高度で極めて予後不良な悪性度が高いと考えられる症例を中心に、細胞核DNA量の面から、その生物学的特徴を検討した。 方法:核DNA量の測定は、胃癌原発巣118病巣、大腸癌原発巣23病巣の計141病巣について行った。また、核DNA量測定には、5μ組織切片に走査型顕微濃度計を用いて行うとともに、一部の標本では、細胞単離標本に蛍光定量測定システムを用いて行い、両検索法の対比を行った。また、Mode:2.5C、Over4C:20%を境としてLow ploidy、High ploidyの判定を行った。 結果:まず、胃癌症例において、同一stage(stageIII)であっても術後早期に再発死亡を来たした症例、ならびに同一深達度であっても著明な遠隔転位、脈管侵襲を認めた症例を中心に検討を加えた。その結果、術後早期再発死亡を来した症例は63.6%と、非再発例に比してHigh ploidyを示すものが多い蛍光にあり、また、リンパ節転位、脈管侵襲の高度な症例は、深達度pm、ssの症例において、対照群に比して有意に高いHigh ploidyの出現頻度を認めた。また、肝転位を有する症例は、胃癌では71.4%、大腸癌では66.7%と肝転位を認めない症例に比して有意に高いHigh ploidyの出現頻度を認めた。さらに、走査型顕微濃度計ならびに蛍光定量測光システムによる核DNA量の比較検討においては、両検索法はほぼ同様の値を示し、差を認めなかった。 結論:以上のことから、胃癌および大腸癌において、転位が高度で極めて予後不良な症例においては、対照例に比してHigh ploidyを示すものが多い傾向にあり、核DNA量は胃癌、大腸癌における生物学的悪性度を示す一指標になりうると考えられた。このため、次年度には、このような生物学的特性を術前に診断できるものかどうかを検討するため、術前の生検標本と切除標本との対比をより客観性に優れ、迅速な自動細胞分離分析装置(セルソーター)を用いて行う予定である。
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