1.食道癌切除標本の性ホルモンレセプタ-を、癌部40例(転移リンパ節も含む)、非癌部31例で測定した結果、癌部ではアンドロゲン・レセプタ-(AR)は6例陽性、エステロゲン・レセプタ-(ER)は5例陽性。非癌部ではARは9例、ERは8例陽性であった。 2.フ-ドマウス可移植食道癌は15例であった。性ホルモンレセプタ-の内訳けは、AR(+)ER(+)3例、AR(+)ER(-)1例、AR(-)ER(+)6例、AR(-)ER(-)5例であった。 3.AR(-)ER(+)のヌ-ドマウス可移植ヒト食道癌株では雌の方が雄よりも癌の増殖が抑制され、対照としたAR(-)ER(-)株では増殖に雌雄差はなかった。さらにAR(-)ER(+)株は去勢した雌では癌の増殖が促進される傾向にあり、生理的投与量のエストロゲンの投与によって増殖が抑制された。この効果は、継代中にAR(-)ER(-)からAR(-)ER(+)に変化した他株でも認められた。以上より腫瘍増殖抑制効果はERを介する女性ホルモンの作用によると考えられた。 4.ERを介する食道癌増殖抑制効果を細胞レベルで検討した。食道癌の培養細胞系の樹立は6株であった。そのうち細胞株AR(ARn)(-)、ER(ERn)(+)、細胞質AR(ARc)(-)、ER(ERc)(-)の細胞株では、10^<-12>および10^<-10>M濃度の17βエストラジオ-ル(E_2)の添加で細胞数の増加が抑制された。また10^<-12>M濃度のE_2添加の場合はDNA合成の低下がみられた。ARn(-)、ERn(-)、ARc(-)、ERc(-)の細胞株ではE_2添加の影響はなかった。 以上、食道癌の性ホルモンレセプタ-の存在が示されるとともに、食道癌の増殖はERを介する女性ホルモンによって抑制されることがヌ-ドマウス移植癌ならびに培養細胞による実験で明らかとなった。
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