研究概要 |
部分膵移植におけるtechnical failureの最大の原因は血栓病である。私達は先に部分膵移植片作成時、1.脾摘により血管血流と組織血流が平行して著明に減少し,これらが血栓形成の環境因子となること、2.この現象の予防には遠位脾動静脈瘻造設がきわめて有効であること、3.血管血流をもとの50%以下で1時間持続すると組織血流は不可逆的低下をきたすこと、を実験的および臨床的に証明した。そこで今回、このような完全にdenervateされた膵移植片における血流調節に深く関与していると思われる血管作働性物質prostaglandin I_2(PGI_2)およびthromboxane A_2(TxA_2)について、移植膵片からの分泌動態、保存(4℃Euro-Collins)時間との関連、TxA_2合成阻害剤(OKY-046)の効果などの観点から犬を用いて実験的に研究した。その結果、以下の知見を得た。1.冷却保存中でも膵グラフトからPGI_2とTxA_2は分泌されるが、これは保存7時間までが特に活発である。2.保存3時間群と保存24時間群に分けて観察すること、前者はPGI_2優位であり、後者はTxA_2優位であった。3.膵グラフトを移植して血管および組織血流を測定したところ、いずれの血流も3時間群はコントロ-ル群(in situでの血流)に比べて有意に増加し(reactive hyperemia)、24時間群では逆に有意に低下した。4.この血流と、移植前(保存直後)・移植後でPGI_2/TxA_2比をみたところ、どの時点でも血管および組織血流はともにこの比と正の相関を示した。5.移植膵の生着率は3時間群で80%,24時間群で20%で前者が有意に良かった。6.以上の結果から、移植膵片からのPGI_2、TxA_2の分泌動態は移植後のグラフト血流に影響し,ひいてはその生着率に影響する。特にPGI_2/TxA_2比がその指標となる。7.以上の結論から、TxA_2合成阻害剤OKY-046を保存液中に添加して上記と同様の実験的検討をしたところ、PGI_2/TxA_2比は上昇し、血流面のみならず膵細胞viability面からも有効であることが証明された。
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