臨床的には研究開始より現在までに直腸癌症例27例に対し、術前高温・化学・照射療法を施行し、局所的には大変良い結果を得ている。治療スケジュールは、術前2週間にわたり温熱療法は4回、放射線療法は合計30Gy、化学療法は当初は5-FUの静注、現在はHCFUの経口投与を併用し、治療終了7〜10月後に切除手術を施行するものである。温熱療法は内腔温熱治療装置(Endoradiotherm 100A)を用い、内腔電極を使用することにより、radiofrequency波で加温することより行った。1回の温熱療法は腫瘍表面温度で42〜45℃、30〜40分加温を目標としている。放射線照射は外照射で、線質はリニアック(6MV X-ray)で、1.5Gy/Fr朝・夕2回/日、週10回で総量20回30Gyにて行った。現在までに解析し得た17例について、特に組織学的にその効果をみると、53%の症例で著効が得られていた。特に全く癌細胞が消失していた例が3例みられ、今後に期待を抱かせた。また壁在リンパ節転移巣が完全に消失した例も経験しており、直腸癌切除後の局所再発防止の可能性が一般と現実的になったと考える。臨床的に大きな副作用は経験しておらず、2例に軽度の白血球減少をみたのみであり、低位前方切除施行例でも縫合不全は経験していない。以上の結果は「Dis. Colon Rectum」誌と「外科治療」誌に近々発表される予定である。しかし、その一方でいくつかの問題点が明らかとなった。1つは術前治療効果が腫瘍発育先進部で不安定な事、2つめは実際に加温する際、アプリケーターの不十分な装着により加温が十分でない症例のみられることである。次年度はこれらの点を中心に更に研究をすすめたい。一方、実験的には腹腔内リンパ節モデルの作成は手技上の問題が解決されておらず、今後は動物の種を変える等の処置が必要と思われる。
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