目的:開心術中の心室細動心筋ではβ受容体の減少、冠静脈洞内のANP低下が見られるとの予想のもとに、臨床的、実験的研究を行ったものである。 方法:1)材料;臨床では開心術時の右心房筋及び冠静脈洞血を採取し、一部では左室乳頭筋や右室流出路筋をも対象とした。更に成犬を用いた体外循環下に心室細動を誘発し、経時的に心房筋を採取し、β受容体及びANPの測定を行った。2)測定方法;β受容体は^<125>I-cyanopindololをligandとした結合実験より求めた。ANPでは、血中及び組織内濃度は直接RIA法を、光顕、電顕的には免疫細胞化学的方法を用いた。 結果:1)β受容体;常温電気的心室細動下で、心房筋β受容体は60分までは著明な低下を示した。しかし細動時間が90分まで延びた症例では逆に受容体量は上昇した。動物実験では30分で低下、90分では増加を示し、臨床的に対比し得た。冷却心停止心筋保護下では、β受容体の変動は2時間までは明らかなものはみられなかった。2)ANP;冠静脈洞内排せつ量は心室細動下では開心直後に増加したが、冷却心筋保護下では明らかなピ-クを認めなかった。心筋内濃度は心室細動下に低下を、冷却心筋保護下では不変ないしやや増加傾向を示した。免疫組織化学的検索では、光顕下では免疫染色性の低下が細動例で見られ、電顕では分泌顆粒の減少が細動、冷却の両群に認められた。 結論と展望:1)開心術中の心筋保護としての60分までの心室細動は、心房筋内β受容体、ANP両者の低下を来した。冷却心停止下では120分までは有意の変動は見られなかった。2)心室細動がANP分泌促進の一因子と思われた。2)β刺激剤及び遮断剤長期投与における両物質の変動、並びに同状況下における体外循環の影響は、今後の一課題である。
|