研究概要 |
初年度研究予定の(1)架橋時間と架橋率の関係では雑種成犬の総頚動脈をglycerol polyglycidy ether(GPE)を用いて、20℃で1、12、36、48時間架橋し、各試料内の未反応のεNH_2基をTNBS法により測定し、架橋率を求めた。その結果、GPEの1時間架橋が33.0%、12時間架橋が43.4%、48時間架橋が67.0%と、時間と共に架橋率は高くなる傾向にあった。(2)架橋率と強度の関係では、ゴムなどの非圧縮性の弾性体の力学的特性を研究するのに発展してきた大変形理論を用いて、GPE架橋血管の力学的特性を検討した。大変形理論では一軸伸長における張力(t)と濃長比(λ)の間には、t=kλ・(λ-1)^<n-1>の関係式が成立する。k,nは未知のパラメーターで柔軟性の指標となるため、これを用いてGPE架橋血管のstress strain curveを解析し、強度ならびに柔軟性を評価した。結果、GPE架橋血管は時間の経過と共に強度が増し、48時間架橋で最大となった。GA架橋血管と比較すると、強度はほぼ同程度であったが、約3倍柔軟性に富んでいた。(3)蛍光抗体法を用いた抗原性の研究では、仔件頚動脈をGPEやglutaraldehyde(GA)で架橋した後、-70℃の凍結切片を作成し、antibovine type1 callagen antibodyを用いて定性的に検討した。結果GPE架橋血管はGA架橋血管と同程度に抗原性を低下させることができた。(4)免疫原性の検討では、まず、雑種成犬(donor)の総頚動脈をGPEで1,12,48時間架橋し、物理的に粉砕し、生食に懸濁した。これらを抗原としてDDYマウスに10日間隔で2度投与し、最終投与後10日目に、血清を採取し、donor犬の末梢血リンパ球と反応させ、フローサイトメトリーを用いて定量的に検討した結果、GPE架橋はGA架橋とほぼ同程度に免疫原性を低下させることができた。以上、力学的および免疫学的検討からGPEの48時間架橋血管が最も優れていた。
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