われわれは犬において開腹して長さ約5cmの遊離空腸を採取し、この遊離空腸の内面を電気メスで焼灼した後、その動静脈を頚部の甲状腺動脈および頚静脈に顕微鏡下に吻合し、頚部気管を10気管軟骨輪切除した後の欠損部に代用気管として挿入した。この長さ約5cmの代用気管は生着し、内腔にTチューブを挿入して所定の硬度を与えれば代用気管として十分機能しうることを報告した。 本研究では遊離空腸による代用気管が気管広汎欠損の補填にも利用しうるか否かを明らかにすることを目的とした。 実験1 犬の気管を14気管軟骨輪含めて管状切除して、長さ約8cmの欠損部を作り、ここに長さ約9cmの遊離空腸を代用気管として挿入した。1頭が術後10日肺炎で死亡し、1頭が術後3週下血で死亡した。残りの6頭には肺炎は発生せず良好に経過した。5頭は3週から12月の間に屠殺し、吻合部と肺を肉眼的ならびに組織学的検索に供したが、代用気管として用いた遊離空腸は生着し、吻合部の治癒は良好で、狭窄所見はなく、肺炎も認められなかった。1頭は12月生存中である。 実験2 犬の気管を21気管軟骨輪含めて管状切除し、生じた欠損部に長さ約13cmの遊離空腸を挿入した。ステントには外径12mm、長さ15.2cmのTチューブを使用した。5頭にこの実験を行ったが、1頭は肺炎で術後12日に死亡した。3頭は術後6日から6月の間に衰弱死した。1頭のみ術後8月生存中である。死亡した犬の遊離空腸はすべて生着し、吻合部の組織的所見は実験1と同様であったが、遊離空腸による代用気管が長くなると、咳嗽が長期間続き、喀痰の移送に無視できないような障害が起こると思われた。 結論 microsurgeryの手技を用いて頚部気管に移植した遊離空腸は長さ13cmまでの欠損の補填には代用気管として十分機能した。
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