生細胞を利用するハイブリッド型人工臓器や人工血管の開発には、生体適合性材料と機能維持した細胞を長期間培養できる系の確立が不可欠である。従来の培地制御による培養系では機能維持した状態での細胞の長期間培養には限界があり、新しいシステムの培養床の開発が必要である。本研究では種々の官能基を有する培養基材を分子設計し、これらの高分子材料に対するヒト血管内皮細胞の接着挙動について解析し、細胞培養制御の可能性を検討した。 ポリスチレンまたはポリ(スチレン・クロロメチルスチレン)共重合体に表面反応でスルホン基、水酸基などの官能基を導入し、これらの表面特性を光電子分光、接触角測定などで解析した。血管内皮細胞はヒト臍帯静脈より酸素法で単離し、10%牛胎児血清、増殖因子を添加したDMEMで培養し、これを高分子表面に播種して材料への接着挙動を経時的に観察した。ポリスチレン表面では細胞接着率が非常に低く、接着形態も不安定であったが、スルホン化ポリスチレン表面ではスチレン基の導入率に応じて細胞接着率が上昇し、形態も安定した接着形態を呈した。血清含有の場合は官能基導入率が10%までは細胞接着率が上昇したもののそれ以上では材料がヒドロゲル化するため若干接着率が低下したが、無血清の場合はスルホン基導入率の上昇に従い細胞の接着率が上昇し、形態も安定した。また水酸基を導入したポリスチレンでは水酸基の導入率の違いが接着率に及ぼす影響は非常に小さかった。 以上から、細胞接着に影響を及ぼす基質材料の表面特性は単に高分子表面の親-疎水性のみでは解決できず、高分子表面のイオン性官能基の効果が重要と考えられた。今後、細胞の機能発現に対する材料表面の効果を検討する必要がある。
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