昭和63年度は、磁力線による神経刺激の脳神経外科領域における応用のうち、主として装置の改良と、基礎的事項、特に安全性について主として動物実験により検討した。コイルと刺激強度の関係については、コンピューターによるシミュレーション、及び生食を満たしたプラスチックチューブを神経組織に見立てた実験により、コイルの中心よりコイルの巻線の内縁に近い部位が最も効率の良い刺激が可能であることが判明した。これは物理学的計算ではコイル内腔の磁束密度は一定になるという事実と一見矛盾するが、刺激の効率は単に磁束密度だけではなく、さらに複雑な要素に影響されることを示す結果と考えられた。以上より被刺激部位を限局させるためにはコイルを小さくすることが必要である。コイルを小さくすると刺激効果が低下するので、能率の良い小さなコイルを作るのは困難である。種々の線材、大きさのコイルを試作した結果、末梢神経では外径3cm、縁皮的皮質刺激では外径7cmのコイルで刺激が可能となった。コイルの絶縁に関しては、コイル全体を合成樹脂に封入する方法により、人体に安全に使用し得る絶縁が実現できたと考える。動物実験は6匹の成猫について行った。神経の刺激が可能な磁力線の強度においては、脳波及び心電図上の変化は認められず、また3例については病理組織学的検索を行ったが、光学顕微鏡レベルでは病理学的変化は認められなかった。よって磁力線による神経刺激は動物実験の示すデータによれば安全に使用し得ると考えられた。本年度は刺激装置本体に対しても、コイルの交換を容易にするコネクターの設置、コネクターをぬくと自動的に高圧を内部で放電する回路の追加、必要時以外は刺激ができないようにする安全スイッチの設置等、次年度の正常被検者を用いての実験の準備として、安全性の強化を目的とした改良が行われた。
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