生体に急激に変化する磁場を加え組織内に渦電流を生じさせることにより神経を刺激する磁気刺激法が注目されている。著者らはこの原理に基ずく刺激装置を試作して、磁気刺激法の基本的性質を検討し、脳神経外科領域における有用性について検討した。磁気刺激装置はコイルに短時間電流を通じ、瞬間的に強い磁場を生じさせることを目的としたもので、コンデンサ-に蓄えた電荷をサイリスタを導通状態にすることにより一時にコイルを通じて放電することによった。猫を用いた実験では、大脳皮質を刺激できる強度の磁気刺激では、脳波、心電図において、安全性に対して問題となるような変化は見いだしえなかった。また、組織学的検討でも、最大1000回の刺激で病理学的な変化は見られなかった。四肢末梢神経では痛覚を全く起こさずに誘発筋電図が得られた。コイルを神経に沿って移動させることにより、容易に伝導速度の測定が可能であった。正常被検者により大脳皮質の経皮的磁気刺激を行った。振幅は刺激強度が増大すると大きくなる傾向はみられるが、その程度は一定せず、また、個体差も大きい、これに対して立ち上がりまでの潜時は、その筋肉によってほぼ一定であり、個体差も少なく、また、広い刺激強度にわたってほぼ一定の値を示した。臨床例についての検討では比較的軽い運動的軽い運動麻痺においても誘発筋電図が全く得られなくなる傾向があると思われた。コイルの小型化は現時点で解決すべき大きな問題である。著者の試作したコイルで経皮的大脳皮質刺激が可能であったのは内径40mmのコイルまでであった。この大きさでは大脳皮質の運動野の局在を頭皮上より知るには大きすぎるが、15mmの移動で誘発筋電図の得られる筋が違うことが観察された。しかし猫を使用した実験では、頭皮上より内径12mmのコイルにより誘発筋電図を記録できた。ヒトの硬膜上より磁気刺激をする場合もこの程度の刺激強度で皮質刺激が可能と予想している。
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