研究概要 |
ラット大槽内に人工髄液を強制的に注入し全脳虚血を負荷し、その3h,6h,12h,1α,2α,4α後に経心的灌流固定を行なった。この動物に対して形態学的観察を行なった。病変は全動物の小脳に認められた。虚血後3時間ではプルキン工細胞が塩基性色素に濃染する所見が見られた。虚血後6時間ではこの傾向が強くなり、全プルキン工細胞の半数以上が強く染まって見えた。この濃染するプルキン工細胞は6時間をピ-クに減少し、12時間では24%、1日目には13%となった。この時点までには、全標本の中に明らかに細胞死を示すプルキン工細胞が稀に見られるものの、数の上で有意な減少を認めなかった。従って1日目までに濃性する神経細胞は回復した。一方、顕粒細胞層内には、プルキン工細胞の軸索が高度に膨化した所見が虚血後3時間より一貫して認められた。従って、虚血後12時間〜1日の標本も明らかな虚血による損傷を受けていると、考えられた。1日目までに一過性に増加する染色性の亢進の意味は、必ずしも明白ではないが、細胞内小器管の形態はよく保たれたまま濃染しているので、一時的に細胞内に色素親和性の物質が集積するものと考えられた。虚血より2日〜4日におけてプルキン工細胞の数の有意な減少が観察された。プルキン工細胞は正常より25%少なくなった。減少の時期は虚血より1日〜2日の間と考えられた。一過性の脳虚血に発生する病変は主としてシナプス後部に集中しており、このことが神経伝達物質による細胞死という仮説を支持する大きな根拠となった。しかしプルキン工細胞ではその軸索近位部に特有の病変が認められた。海馬と小脳では興奮性神経伝達物質に対する受容体の分布に大きな違いがあるといわれている。本実験で観察された形態上の差異がこのような伝達物質受容体の差異を反映しているのか今後検討を加えていく予定である。
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