研究概要 |
脳虚血により神経細胞が破壊されることはよく知られている。その中でもテント上の構造では海馬錐体細胞、テント下の耕造では小脳プルキンエ細胞は、特に虚血に対して脆弱である。小脳プルキンエ細胞の虚血による細胞死にはまだ不明のことも多い。海馬の錐体細胞とプルキンエ細胞には共通の面と、非常に異なった面がある。そこでプルキンエ細胞の細胞死の研究を海馬の実験と対比する目的で実験を行なった。ラットの大槽に2本の針を刺入し、1本より人工髄液を注入しもう一本より頭蓋内圧の測定を行なった。頭蓋内圧を血圧より30mmHg高い状態で10分間維持し全脳虚血を負荷した。その3,6,12時間後および1,2,4日後に動物を潅流固定し小脳虫部から得られた標本のプルキンエ細胞の病変を観察した。プルキンエ細胞層の標本上の長さ1mmあたりのプルキンエ細胞密度は正常では14.7±0.3であった。この数は虚血後1日目はで有意な変化を認めなかった。しかし虚血の2日〜4日後には約25%の減少が発生した。従ってプルキンエ細胞の虚血性神経細胞壊死も遅発性のものであることが明らかとなった。しかしながら、プルキンエ細胞には明らかな形態学的変化が発生した。虚血の3時間〜12時間にかけて細胞の染色性が著明に亢進したのである。この変化は虚血の6時間後には全プルキンエ細胞の57%に認められた。しかし、その後の細胞死は全体の1/4に発生したことから、病変は可逆性のものであると考えられた。また、病変は細胞体・樹状突起に主として細胞の染色性の亢進としてあらわれる一方、プルキンエ細胞の軸索には高度の腫張があらわれた。虚血後の細胞質の染色性の亢進には、細胞内のCa^<2+>の増加が関係していると信じられている。又、細胞の腫張にもCa^<2+>の増大による膜と細胞骨格との間の連絡の切断が関与している可能性が高い。プルキンエ細胞にも他の場合と同一のメカニズムが働いていることを考えられた。
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