研究概要 |
脂肪塞栓症候群は骨折の重要な合併症であるが,そのメカニズムについては多くの基礎的研究にもかかわらずほとんど何も知られていない.我々は本症候群における肺障害発生機序に対し,アラキドン酸カスケ-ドの関与を検討する目的で以下の検討を行った. 〔実験方法〕雄成犬を用い,(1)片側の大腿骨を骨折させ,本症候群発症検討のため血液ガス分析,胸部X線撮影,脂肪染色による組織学的検討.(2)末梢血中phospholipaseA_2(PLA_2),prostaglandin E_2(PGE_2),6ーketoーprostaglandinF_<1α>(6ーketoーPGF_<1α>),thromboxaneB_2(TXB_2)測定.(3)摘出肺抽出PGE_2,6ーketoーPGF_<1α>,TXB_2の定量,および酵素抗体法(EIA法)を用いた肺組織におけるPGE_2の存在の観察を骨折群,非骨折群で行い比較した. 〔結果と考察〕の(1)骨折群の肺組織では,多数の脂肪栓子,肺胞虚脱等の所見が認められた.胸部X線所見は変化は認められなかったが,肺に脂肪塞栓が発生していると判断した. (2)末梢血中PLA_2は低下,アラキドン酸代謝物に有意な変化は認めなかった.全身的に現れるほどの変化が起こっていなかったと考えられた.(3)組織抽出の6ーketoーPGF_1 αは有意な変化を示さなかったが,骨折群でTXB_2,PGE_2が非骨折群に比較し有意に高値を示した(p〈0.05)、EIA法の観察で骨折群にPGE_2の存在が確認された。肺循環ではTXB_2,6ーketoーPGF_<1α>の不安定な前駆体であるTXA_2とPGI_2により肺血管緊張性等が保たれているとされているが,増加したTXA_2は肺血管収縮作用,血小板凝集作用をもち,アラキドン酸カスケ-ドの変化としては,肺障害増悪の方向に向かわしめている事を示しているものと考えられた. 〔結論〕骨折実験動物の多くの例の肺においては脂肪塞栓を起こしていた.その病変の発生機序には,アラキドン酸カスケ-ドが肺障害を促進する方向へ働く事がinitiatorとなっていることが考えられた.
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