研究概要 |
昭和63年度は予備的に実験を行い,成犬の皮下脂肪,骨髄脂肪,血液脂質の脂肪酸分画を測定し,更に肺組織の脂肪酸分画を骨折群と非骨折群に分けて測定した.結果は,骨折群においてアラキドン酸が非骨折群に比較し有意に高値を示した.また,骨折群において肺組織に脂肪塞栓が発生していることを脂肪染色にて確認した. 平成元年度から2年度は上記の実験結果を基にアラキドン酸カスケ-ドが脂肪塞栓発生に関与するという仮説を立て,その確認実験を行った.すなわち,骨折群において経時的に血中のアラキドン酸代謝物(プロスタグランジンE_2〔PGE_2〕,トロンボキサンB_2〔TXB_2〕,6ーketoープロスタグランジンF_1α〔6ーketoーPGF_1α〕)に分け摘出した肺組織より抽出したPGE_2,TXB_2,6ーketoーPGF_1αの測定である.結果は,血中のパラメ-タ-に有意な変化は認めなかったが,組織抽出物の測定においてPGE_2,TXB_2が骨折群において非骨折群より有意に高値を示した.アラキドン酸代謝物の肺組織に対する機能として,TXB_2,PGE_2は肺血管収縮,血小板凝集亢進作用があり,これらが上昇しているということは,アラキドン酸カスケ-ドは肺組織において栓子脂肪を増加せしめる方向に働いているものと考えられた. 今後は肺組織のみの脂肪塞栓ではなく,臨床において観察される全身的な脂肪塞栓症候群のモデル,すなわち血中パラメ-タ-の変化として測定が可能になるモデルを考案中である.
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