脊髄神経根の慢性圧迫下での病態を解明するための基礎実験として、ヒト及び家兎脊髄神経根の解剖学的比較研究を(1)肉眼レベル、(2)光学顕微鏡、(3)透過型電子顕微鏡、(4)走査型電子顕微鏡を用いて検討した。その結果は脊髄神経根結合組織性被膜は、構築学的には、ヒトも家兎も本質的には変わるところはなく、脊髄神経根ではヒトのそれと比較して、脊髄神経節が脊髄のかなり近傍にあること、クモ膜やrootsheethは層が薄くarachnoid villiの発達が悪いこと、クモ膜下腔が狭いこと、また神経根内の動脈分布はヒトと比較して数は少ないことなどが挙げられる。 また神経根内の微小血管の三次元的な構造解明のため血管の鋳型標本を作成して観察した。結果は通常の末梢神経と同様に毛細血網が発達しており、Parkeらの言うwater shedは認められず脊髄神経根全体に豊富でよく発達した毛細血管床がみられる。表層には数本のmedullary artery及びradicular artery et veinが縦走するが、走行中の分岐は非常に少ない。神経内外血管の連絡部ではヘア-ピンカ-ブ様の特殊な形態をとり、同様な分岐を繰り返しながら内径を減じていく。内径30〜120μmの血管に関しては、血管表面の内皮細胞の核による圧痕の有無により動・静脈の区別は可能であった。また終末部分の毛細血管レベルは内径はおおよそ10μmで、随所で互いに吻合し三次元ネットワ-クを形成していた。ヒト脊髄神経根についての血管鋳型標本については現在作成できていない。また神経根血流については電解式血流計で計測を行っているが再現性のある値がでにくく、現在カラ-マイクロソフェアにて計測実験をつづけている。現在のところ慢性圧迫実験に必要な基礎資料の確立のための実験が未完了の部分があり、その終了後圧迫実験にうつる予定である。しかしながら、現在までに得られた知見からでも脊髄神経根症状の発現解明するうえでいくつかのことが推測され、特に神経根の栄養及び代謝には血液循環ばかりでなく、脳脊髄液の関与も大きいことが示唆され、arachnoid villiはこの脳脊髄液の代謝の要として働いていると推察された。
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