研究概要 |
遺伝性多指症マウス(Pdn)のホモ接合体胎仔では、胎生11.5日の肢芽軸前側深部中胚葉のプログラム細胞死が起きない。このことが、過剰指を形成するメカニズムと考えてきた(Naruse & Kameyama,'82'83'86'86)。この深部中胚葉組織を、子宮切開法のもとで、微小電極(日進医療器K.K.)を用いて破壊し、多指の発現を制御する試みをした。その結果、多指になる運命にあるホモ接合体にもかかわらず、5本の指を形成した胎仔を数例得ることができた(日本先天異常学会第28回大会、'88)。しかし、この方法では、電極を卵黄嚢膜、羊膜を通して胎仔に挿入するために、羊水の漏出が多く、また、電気焼灼による組織破壊のため、羊水中に、プラズマ(イオンと電子の混合ガス体)が発生した。これらの原因で、多くの胎仔が死亡するものと考え、次に、レーザーメスの利用を考えた。レーザーの場合には、集光点にエネルギーが集中するので、卵黄嚢膜、羊膜を破壊することなく胎仔組織を破壊できる。細胞破壊性のYAGレーザー(波長1067nm)を用いたところ、Free Running 方式では長・短時間照射とも胎仔組織を破壊することができなかった。Qスイッチ方式を用いることで組織破壊が可能となったが、血管が破壊され、多量の出血を伴い、手術胎仔の生存が期待できず、目的とする胎仔手術には不適当であると判断した。波長647.1nmのクリプトンレーザーでも全く胎仔組織を破壊できなかった。蛋白凝固反応を起こすアルゴンレーザーのグリーンの波長(514.5nm)あるいはブルーとグリーンの波長(488nm)を試みたところ、中胚葉細胞が破壊され、出血もなかったので、アルゴンレーザーを採用することとなった。(ニデック社)。現在のところ、1W、0.2-0.3secが最適条件と考えている。アルゴンレーザーによって破壊された細胞の組織像は核よりも細胞質が先にダメージを受けた。
|