研究概要 |
先天性の奇形を胎生期に発見し、この奇形および、それによって惹起される病態を予防するための胎児治療を目標としてきた。その基礎実験として、マウスの遺伝性多指症(Polydactyly Nagoya,Pdn)胎仔に胎仔外科手術を行い、奇形の防御をしうるかどうかを検討してきた。 胎仔外科手術には、子宮切開法を用いるが、従来より行ってきた電極による手術では羊水の漏出や羊水中の気泡発生などが原因で、手術胎仔の死亡が多かった。レ-ザ-の場合には、集光点にエネルギ-が集中するので、卵黄嚢膜、羊膜を破壊することなく、胎仔組織を破壊できるので、その利用が本研究の主要なポイントとなった。数種のレ-ザ-光線を試した結果、アルゴンレ-ザ-がマウス胎仔外科に適していることがわかった。 子宮切開法のもとで、妊娠13日のICRマウス胎仔の後肢第1指にアルゴンレ-ザ-2W、0.3秒を照射した。胎生18日に、再び開腹し、子宮外で育った胎仔を調べてみると、10例中6例は完全に第1指を消失し、残る4例でも、第1指は痕跡的であった。そこで、遺伝性多指症マウスのホモ接合体(Pdn/Pdn)の胎生13日に、その後肢の過剰指原基に2W、03秒照射した。その結果、11例中5例では、過剰指が完全に消失し、5本の指を形成した。残る6例は不完全多指症を示した。過剰指が完全に消失し、5本の指を形成したものを骨・軟骨重染色で染めると、第1指は三節母指を示していた。本実験で、レ-ザ-による胎仔外科手術が、生後に過剰指を切断するのに比べて、優越しているとは考えていない。しかし、レ-ザ-を胎児鏡や超音波診断装置と組み合わせることによって、ヒトの多指症や合指症のみならず、一卵性双生児の寄生体や奇形腫の除去を目的とした胎児外科にレ-ザ-を使うことは、近い将来に可能になると思われる。
|