研究概要 |
吸入麻酔薬の代謝産物である無機フッ素は血中濃度が50μM/Lを超えると、腎臓障害が発生するといわれている。そのため、フッ素の産生排泄を知ることは新しい吸入麻酔薬であるセボフルレンを臨床応用するに当たり重要な課題である。本研究ではセボフルレン吸入麻酔時に産生される無機フッ素の産生排泄を知る目的で次の実験を行った。1)ウサギにフッ化ナトリウムを静脈内投与し、尿中に排泄されるフッ素を測定し、排泄量と投与量の関係を調べた。2)ウサギにセボフルレンを吸入させ、血中無機フッ素濃度と尿中無機フッ素総排泄量を求めた。3)セボフルレン長時間吸入(8時間)による無機フッ素の産生排泄をエンフルレンと比較検討した。これよりセボフルレン吸入時の無機フッ素の産生排泄量を推測し、その安全性を検討した。無機フッ素濃度はイオンクロマトグラフィ-で測定した。 1)200μM/kgフッ化ナトリウムを静注後の血清、尿中の無機フッ素の半減期は614分、795分、分配容量は45L、30時間で投与量の22%が尿中に排泄された。2)1%、2%、3%のセボフルレン2時間吸入による、血中無機フッ素濃度は22.8±8.7,31.8±11.0,41.8±13.2μM/Lであった。尿中無機フッ素総排泄量は26.1±6.7,41.4±11.3,64.3±18.0μMであった。尿量、尿浸透圧には変化はなかった。血中の無機フッ素濃度と尿中無機フッ素総排泄量と吸入セボフルレン濃度の間に相関がみられた。3)セボフルレン8時間吸入による無機フッ素の血中濃度は47μM/L、エンフルレン39μM/Lであった。吸入中止により速やかに減少した。尿中無機フッ素総排泄量はセボフルレン124±35μM、エンフルレン70±17μMで有意差があった。しかし、尿量は有意にエンフルレンの方が少なかった。以上より、セボフルレン麻酔で無機フッ素が産生され、無機フッ素の血中濃度は約50μM/Lまで上昇することもあるが、速やかに低下するため、腎障害を発生させる可能性は少ないと考察した。
|