研究概要 |
一過性全脳虚血において脳血管内停滞血液によるno-reflow現象が神経学的予後および脳細胞障害度にいかなる影響を及ぼすか、イヌ34頭を用いて検討した。全脳虚血は大動脈遮断・大動脈右房バイパス法で行い、虚血時間は15分とした。希釈群19頭では大動脈遮断後直ちに大動脈弓から生理食塩水150mlを脳血管内へ潅流し脳内血液を希釈(Ht11%)した。このとき同時に外頚静脈から同量の血液を脱血した。 神経機能:虚血後5日間にわたり脳波、覚醒度、脳神経反射、運動機能、行動様式,呼吸状態の回復率を調べ、後5者は障害度を点数化した。 no-reflow現象:希釈群における生食潅流と同様の方法でコロイダルカ-ボンを100mmHgの圧で注入し、脳を摘出,固定後5mmの厚さに環状切断し、コロイダルカ-ボンによる黒染面積からno-reflowの割合を調べた。 組織検索:5日間の実験終了後、対照群の4頭、希釈群の4頭およびno-reflow検索を行った各標本において組織検索を行った。脳をホルマリン固定し、パラフィン包埋後6ミクロンの切片にしH・E染色後鏡検した。 結果:15分間の虚血により両群とも全脳でno-reflowが形成されたが希釈群では脳幹小脳部で少なかった。再潅流3分後希釈群ではno-reflow部は10%であったが対照群では脳幹部を除きすべての部分でno-reflowが認められた。5分以後は洗い流され両群とも10%以下であった。神経機能では各項目とも再潅流開始24〜48時間以降希釈群が有意に改善し、改善度はHtの希釈度に比例した。組織学的検査では希釈群で海馬CA1錐体細胞の正常数が多かった。 結論:虚血中の脳内停滞血液を希釈することによりno-reflow現象の形成が軽減され、再潅流開始後脳血流がより増加し神経学的予後が改善された。脳虚血における血液希釈の有効性は組織学的にも確認された。
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