完全脳虚血後の二次的脳血流域少症として虚血直後のno-reflow現象、虚血後1〜数時間後にみられる遅発性脳血流減少があり、これにの病態生理および治療法に関しイヌを用い検討を加えてきた。全脳虚血は大動脈遮断・大動脈右房バイパス法で行い虚血時間は15分とした。 no-reflow現象:上行および下行大動脈を遮断し大動脈弓から100mmHgの圧で100〜200mlのコロイダルカ-ボンを注入し、脳の環状断面における黒染面積の大きさからno-reflowの割合を測定した。15分間の虚血によりno-reflow現象が認められた。虚血開始直後に生理食塩水で脳血液を希釈した群では脳幹部におけるno-reflowの形成がより軽度であった。再灌流開始3分後対照群ではno-reflowは70%以上を占めたが、希釈群では10%以下であった。5分後以降では両群とも洗い流されほとんど認められなかった。希釈群では神経機能の回復が有意によく、組織学的検索でも海馬CAI錐体細胞での障害がより少なかった。 遅延性脳血流域少:15分間の全脳虚血後一過性の脳血流増加に引き続き6〜10時間大脳皮質および脳幹部血流が20〜40%減少することが確認された。虚血後4時間にわたり1μg/kg/minで投与されたカルシウム拮抗薬ニカルジピンはこの血流減少を改善し、これにより脳機能の回復が促進された。これは遅発性脳血流減少が虚血後脳機能回復における二次的増悪因子であることを意味する。 結論:一過性脳虚血による脳機能障害の原因として細胞自体の脆弱性(細胞原説)と二次的血流障害(血管原説)が挙げられる。後者のうちよく知られているのがno-reflow現象および遅発性脳血流減少である。本研究において15分間の虚血では両現象とも存在すること、これらが脳機能に対する二次的増悪因子であること、これに対する積極的治療が神経学的予後を改善することが明らかになった。
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