研究概要 |
設備の購入を予定通り完了し、昭和63年度より睾丸腫瘍患者の長期生存例、新患、およびコントロールの血清を144検体採取保存してきた。この144検体の一部(41検体)に関して、抗精子抗体の測定を行ってきた。抗精子抗体の測定はEnzyme-Linked immunosorbent assay(ELISA)法にしたがい、精子の運動性の観察を行うことによって判定した。測定結果では、41検体のうち4検体(約10%)のみが陽性で他は再検査でも陰性であり、予測していたよりも睾丸腫瘍患者の抗精子抗体陽性率は低い結果であり、運動性の低下の有無から抗精子抗体の有無を判定するこのELISA法では、抗精子抗体の検出感度に問題があるように思われた。従って、今後もこの測定方法で調査研究を継続することには問題があると考えられる。これらの理由により,睾丸腫瘍患者における抗精子抗体の意義の検討は、現時点では因難な状況である。 今後、ELISA法と平行して、検出感度の改善のために他の測定法の検討を行い、信頼できる測定方法を確立することが当面必要であると考えている。抗精子抗体は単一のものではないが、中心的な抗体の検出が可能かどうかを含め検討をすすめていく予定である。 臨床的には、現在まで睾丸腫瘍患者の精液検査を定期的に行い、造精機能の推移を観察してきた。文献でも示唆されているが、睾丸腫瘍患者では造精機能の低下している症例が健常男子と比較して多くみられるようであり、抗精子抗体の関与が充分示唆される。従って、抗精子抗体の腫瘍マーカーとしての臨床的意義を明らかにするために、今後も精液検査と平行して、抗精子抗体測定のために血清保存を引き続き行い、測定方法の改善の後に臨床的検討を行いたいと考えている。
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