昭和63年度より精巣腫瘍患者の長期生存例、新患、およびコントロ-ルの血清を保存してきた。この検体に関して抗精子抗体の測定を行ってきた。抗精子抗体の測定はEnzyme linked immunosorbent assay(ELISA)法に従い、精子の運動性の観察を行うことによって判定した。測定結果では、約10%のみが陽性で他は再検査でも陰性であり、予測していたよりも抗精子抗体陽性率は低い結果となった。上記方法は精子運動性を判定基準とした間接的な方法であるため、抗精子抗体の検出感度が低くいと考えられる。そのため、現在まで意味のある知見は得ていない。今後、この測定方法で調査研究を継続することは有意義ではないと判断している。 平成元年度より検出感度の改善のため、他の測定法の検討を行なってきた。最近、婦人科領域では上記の抗精子抗体測定法にかわり、Antisperm Antibody Kit(EIISA)による直接測定法を採用し、測定感度の上昇を報告した論文がある。今後はこの測定法に変更し、現在まで蓄積してきた検体を再検討する予定である。測定感度の改善が認められた場合には、当施設にて治療を行った精巣腫瘍患者の抗精子抗体の動向につき再調査を行う予定である。すなわち、精巣腫瘍患者の抗精子抗体と造精機能を経時的に測定し、抗精子抗体や造精機能の推移を引続き調査していきたいと考えている。抗精子抗体の腫瘍マ-カ-としての臨床的意義を明らかにするために、転移のあった進行期症例では、腫瘍再発を示唆するAFPやHCGβなどの腫瘍マ-カ-も平行して経時的測定を行ってきている。今年度は抗精子抗体の腫瘍マ-カ-としての臨床的意義を明らかにするため、最終的な臨床的検討を行いたいと考える。
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