平成2年度までに、本研究の対象となった腎移植患者は8例である。腎移植術前および術後は1〜3日毎、30回以上の静脈採血により検体を得、次の項目につき検討を行なった。リンパ球サブセットでは、CD4、CD8、leu7、OKT9を、またクレアチニン、BUN、WBCを測定した。さらに尿中NAG、β_2MG、一日の尿量などを測定項目とした。これらの項目の測定値30回以上を各症例毎に、コンピュ-タ-に入力、自己回帰モデル(赤池原法氏、和田により臨床デ-タ-解析用に修正を行なってある)を用い検討を行なった。血清クレアチニンやBUNの変動と上記諸細胞ならびにNK細胞などとの相互作用についての検討によると細胞性免疫は、腎機能障害の原因として働くだけでなく、その結果としても大きな影響を受けていることが示された。また、尿中のNAGや、血清クレアチニンの変動はCD4、CD8、NK細胞などにより、影響を受けることが判明した。さらに、パワ-寄与率およびインパレス応答の結果から、CD4とCD8の間にはネガディブフィトバック関係があり、数日遅れて互いに抑制しあっている可能性が示唆された。CD8細胞からのNAGへの影響は明確ではなかったが、その逆方向の応答は各症例間に共通性があった。CD4と、尿中NAG変動の関わりをみると、症例により応答の方向性が一定せず、腎機能障害因子としてのCD4細胞の明らかな関与は確認できなかった。D4とCD8は、拒絶反応に対して影響因子となる可能性が考えられたが、その影響度は個人差が大きく一様に論じることができなかった。これの解決のためには、背景因子を詳細に検討する必要があると考えた。これまでの結果から本法は腎移植患者の免疫ネットワ-クの解析に有用であるが、拒絶反応を探るためにはさらに異なった多種類の因子の考慮が必要であると思われた。
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