妊婦におけるヒトパルボウイルス(HPV)感染症とその胎児障害について、本年度はつぎのごとき検討成績をえた。 1.将来の伝染性紅斑流行時での妊婦のHPV感染の危険度を推測するため、乳幼児を中心に若者者の抗HPVIgG抗体保有率を調査した。1988〜1989年に当院を受診した0〜14歳の小児における保有率は、0〜4歳では8%(4/51)、5〜9歳で41%(16/39)、10〜14歳では45%(20/44)であり、5〜14歳での高値は今回の伝染性紅斑流行の大きさを示すものと考えられた。一方、1989年における19〜20歳女性(短大生)の抗体保有率は18%(26/144)と低値であった。 2.1986年から1987年にかけての伝染性紅斑流行時における妊婦での初感染率と胎児予後を検討した。IgM陽性は3%にみられた。なおIgG陽性は27%であった。IgM陽性4例のうち1例は胎児水腫に陥り子宮内胎児死亡となったが、この症例での感染時期は妊娠18週と考えられた。他の3例はいずれも正常児を得ている。このうち1例のみ感染時を特定でき、妊娠22週めであった。 3.HPV感染を病理組織学的に究明するため、in situ hybridization法の確立に現在努めている。HPVの胎内感染にて子宮内胎児死亡となった胎齢26週の肝臓を陽性コントロ-ル、非感染肝臓を陰性コントロ-ルとして、まずSouthern blot hybridizationにてHPV-DNAの検出をおこない、前者で陽性、後者で陰性の結果をえた。ついでHPV-DNAを^<35>Sで標識し、in situ hybridizationを行ったところ、感染胎児肝臓内の赤血球にgrainの集積を認めたが、必ずしも背景との鑑別は容易ではなかった。このため現在、非放射性物質にてHPV-DNAを標識したin situ hybridizationを研究中である。
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