研究概要 |
本年度は最終年度であるので、年度初めに計画したヒトパルボウイルス(HPV)の胎内感染による胎児障害を組織学的に解明するためのin situ hybridization(ISH)の開発と,それを用いての胎児水腫発生機序ならびにHPV感染と妊娠初期流産の関連性の検討を行い,以下の研究成果をあげることができた。 1.Nick translationにより作成したビオチン標識HPV DNAプロ-ブおよびビオチン標識PBR322プロ-ブを用いてISHを行い,すでに ^<32>P標識HPV DNAプロ-ブを使ってのSouthern blot hybridizationにてHPV DNAの有無が判明している組織で本法の適格性を確認した。 2.HPVの胎内感染による胎児水腫2例について,肝,脾,心臓,肺,賢,脳,腸管,副管,腸腰筋,胸腺でISHを行った結果,両症例ともこれらすべての組織中に存在する赤芽球系幼若細胞の核にHPV DNA陽性所見を認めた。しかしながら,心筋細胞では明らかな陽性所見を呈する核は全く見いだせなかった。また,肝細胞,肺胞上皮細胞,賢尿細管上皮細胞,神経細胞,陽上皮細胞など臓器固有の細胞の核もすべて陰性であった。この結果から,検索した限りではHPVの感染細胞は赤芽球系細胞のみであり心筋細胞は標的細胞とはならないことが強く示唆された。したがって,胎児水腫発症の機序としては,一部に主張されているHPVによる直接的な心筋障害は否定的であり,赤芽球の感染・破壊に続く重症貧血,主要臓器の低酸素症とそれによる心機能不全の複合が主因であると考えられた。 3.HPV感染と初期流産の関連は否定的であった。 (なお,本年度行ったISHの確立とそれによる検討は岡秀明の協力によってなされたので研究分担者に加えた。)
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