35例のヒト原発卵巣腺癌のEGF受容体を^<125>IーEGFを用いたbinding studyで検討したところ20例(57%)の高率に特異的な^<125>IーEGFの結合を認め、とくに漿液性腺癌では70%をこえる発現率であった。EGF受容体に結合しうるligandについてnorthern analysisとimunocyitochemistryにて検討したところ、受容体陽性例では全例EGFでなくTGFαの発現を認めた。以上の結果はEGF受容体を発現する卵巣癌でのTGFα/EGF受容体オ-トクリン機構の発現を示唆するものである。つぎに、この機構の生物学的意義を明らかとするため、卵巣癌から細胞培養系を設定し、3Hーthymidine incorporationにて細胞増殖に対するTGFαと、このautocrine機構に対するantagonistであるTGFαとEGF受容体に対するモノクロ-ナル抗体の影響について検討した。EGF受容体陽性の腫瘍細胞では培養系にTGFαを加えると増殖は促進され、TGFα抗体およびEGF受容体抗体で増殖は抑制された。EGF抗体による増殖への影響はみられず、TGFαによる増殖促進、抗体による増殖抑制はdoseーdependentであった。以上の結果はEGF受容体を発現するヒト卵巣癌にTGFα/EGF受容体autocrine機構による増殖機構が存在することを強く示唆するものである。EGF受容体陰性の卵巣癌細胞による培養系では、TGFα、TGFα・EGF受容体抗体いずれも培養細胞の増殖に有意な変化をもたらさなかった。このことはEGF受容体陽性細胞でみられた結果の特異を示すものである。臨床像との関連では、肺のnon small cell cancerの場合と同様TGFα/EGF受容体autocrine増殖機構が発現している癌は細胞の悪性度が高く、腫瘍マ-カ-(CAー125)が高値であった。但し、これらの症例ではcisーplatinによる化学療法の効果が高く、生命予後がEGF受容体陰性例と比較して必ずしも悪いとは言えないようである。
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