昭和63年度の研究では、扁平上皮癌細胞株SKGIIIa細胞を、5-azacytidine(5-azaC)で処理することにより、2種類の亜細胞株(A-5及びB-5細胞)を得た。則ち、A-5細胞では、細胞内TA-4活性が増加しているにもかかわらず、培養上清中のTA-4放出能は低く、一方、B-5細胞では、細胞内TA-4活性はA-5細胞に比較して低いにもかかわらず、TA-4放出能はA-5細胞に比較して明らかに増加していた。そこで、平成元年度の研究では、これら2種類の亜細胞株のin vivoでの腫瘍形成能を検討した。実験方法は、A-5及びB-5細胞を1×10^6個、5×10^6又は2×10^7個、ヌ-ドマウス側腹部皮下に注入し、経日的に腫瘍の増大速度を計測すると共に、腫瘍摘出時に採血し、血中TA-4濃度をRIAにて測定した。又、腫瘍組織内TA-4活性を、ポリクロ-ナル抗体を用いた免疫染色及び、TA-4の酸性分画に対するモノクロ-ナル抗体を用いたautoradiographyにて検討した。 その結果、5×10^6個注入群では、B-5細胞が、A-5細胞に比し有意に高い腫瘍形成能を認めた。又、血中TA-4濃度も、B-5細胞移植ヌ-ドマウスが明らかに高値を示した。免疫染色では、A-5、B-5細胞により形成された腫瘍共に、組織内TA-4活性を認めたが、B-5細胞の方が明らかに陽性細胞が少なかった。一方、autoradiographyでは、TA-4の酸性分画は、B-5細胞による腫瘍組織中に多い傾向を認めた。以上の結果より、SKGIIIa細胞を5-azaCで処理することにより、TA-4の酸性分画の産生及び腫瘍形成能が増加することが明らかとなった。このことは、腫瘍の増殖の過程で、TA-4の発現が変化し、そのことが腫瘍の増殖能などの生化学的性格に変化をもたらす可能性を示唆しているものと思われた。
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