研究概要 |
細胞遺伝学の発展により、全胞状奇胎雄性発生に基づくこと、さらに全胞状奇胎のうち二精子受精に基づくものは続発性変化を生じやすいことが明らかとなった。そこで発生工学の技術を応用し、マウスにおいて二精子受精による三倍体卵を作製したのち、雌性前核を除去することにより、二精子受精に基づく雄性発生卵を作製し、移植することによって、絨毛性腫瘍への移行を検討し、染色体異常に基づく発癌機構解明を目指した。前年度において、三倍体卵を高率に得る方法、前核除去用のマイクロピペットについて検討した。しかし得られた雄性発生卵はin vitroの培養においては二細胞以上に発育しなかった。その原因一つとして、in vitroでの培養条件の悪さが考えられ、より生理的条件下での卵培養系の確立を目的として、以下の腹腔内での卵培養実験をおこなった。雌マウスはICR,F_1,(C57×C3H)を、雄マウスはICRを用いた。過排卵処置後、自然交配で得られた各発育段階の卵を採取した。1.6%寒天の円柱(半径3〜4mm,長さ1.5cm)に卵を封入し、雄マウス、非妊マウス、偽妊娠マウスの腹腔に入れた。1〜3日後、寒天を取り出し、位相差顕微鏡下で卵の発育を観察した。桑実胚よりの培養では、ICR、F_1で各々、72.4%(実験卵数n=58)、74.3%(n=35)が胚盤胞以上に発育した。二細胞からでは、F_1で65.3%(n=49)が胚盤胚以上に発育したが、ICRにおいて胚盤胞まで発育したものはなかった。一細胞からでは、ICR、F_1で各々、50%(n=90)22.7%(n=100)が二細胞まで発育し、そのうち33%、68%が四細胞までの発育で止まった。寒天を移植されるマウスの雌雄での差はなかった。今回の実験で寒天に封入された卵が腹腔内で発育することが証明されたが、今後より適切な条件を検討し、雄性発生卵に対しても応用していくつもりである。
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