妊娠中毒症は妊産婦死亡の主因を占めているばかりでなく、子宮内胎児発育遅延や胎児仮死などの胎児にとっても大きなリスクとなる重大な疾患である。しかしながら正常妊娠経過での循環動態調節機構さえも未だ混沌としており、妊娠中毒症の本態は解明されていない。今回、血圧調節に密接に関わっているレニン-アンジオテンシン系、カリクレイン-キニン系、そして最近注目を集めている心房性ナトリウム利尿ポリペプチド(ANP)などの液性因子に着目し、ラットを実験動物として用いて以下の点を明らかにすることを目的とする。1)正常妊娠ラットにおけるレニン(Rn)、アンジオテンシノーゲン(Ag)、カリクレイン(KI)、キニノーゲン(Kg)、ANPをmRANレベルで検出することにより、それらの発現部位を同定する。2)妊娠経過におけるこれら液性因子の発現部位での生成量を連続的に定量する。また血中レベルでの推移と比較検討する。3)妊娠、非妊娠ラットに各種ホルモン(性ステロイドetc)、各種薬剤(カプトプリルetc)、Naclなどの負荷を行いこれら液性因子の発現の変化を検討する。4)自然発症高血圧ラットなどの病態モデルを用いて上記と同様の実験を施行し正常ラットでの成績と比較検討を行う。これまでに正常妊娠ラットを用いて妊娠時におけるAg、Kgの主たる生成部位は肝臓であり、また非妊娠時に比して発現が高進していることをmRNAレベルで確認した。また現在去勢雌ラットを用いてエストロゲン負荷を行い、エストロゲンがAg、Kgの発現に及ぼす影響を検討している。また自然発症高血圧ラット(SHR)を交換後、経尾測定により経時的に血圧を測定し、血圧の変動とまたそれぞれの時点での液性血圧調節因子の変動を検討している。SHRでは妊娠経過にともない血圧が低下する傾向が得られており塩分負荷を行い、血圧の変動、液性血圧調節因子の変化も併せて検討している。
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