研究概要 |
妊娠時における循環動態調節機構には不明な点が多く、そのために周産期医学の抱える重要な疾患の1つである妊娠中毒症の真の病因は解明されていない。それ故にその真の病因に基づいた適切なる治療方法、予防方法は確立されていない。そこで今回妊娠ラットを用い、液性因子による血圧調節機構について総合的な検討を行い、以下の成果を得た。 [妊娠時の液性因子による血圧調節機構]mRNAレベルでの検討を行うことにより、妊娠ラット肝臓においては、アンジオテンシノ-ゲン(AG)、キニノ-ゲン(KG)の生成が有意に亢進しており、これが血中レベルでのレニン-アンジオテンシン系、カリクレイン-キニン系の亢進に大きく関与していると考えられる。また妊娠時にはAGIIに対する末梢での感受性も鈍化しており、この鈍化の要因としてエストロゲン、プロスタグランジンが関与していることが示唆された。またこの鈍化は子宮循環においてより顕著に起こっており、このことが子宮血流の安定した供給に大きな役割を果たしていると考えられる。 [AG、KG産生に及ぼすエストロゲンの影響]去勢雌ラットにエストロゲンを負荷した群においてはその肝臓におけるAG、KGの産生は去勢単独群に比して有意に亢進の原因の1つとして、エストロゲンが考えられる。 [妊娠SHRにおける血圧変動及び血気圧調節液成因子]正常ラットでは妊娠経過を通じて血圧はほぼ一定に保たれるが、自然発症高血圧ラット(SHR)においては妊娠末期に有意の血圧低下が認められる。塩分負荷により、この妊娠末期の血圧低下傾向は減弱する。SHRでは妊娠時の肝臓でのKGの産生亢進している。妊娠時における肝臓でのAG,KGの産生抗進が正常ラットに比して顕著であるが、塩分負荷による更なる産生亢進は認められない。SHRでは昇圧反応に対する代償機構の破綻が示唆され、この破綻が塩分負荷時の血圧帝下現象の妨げになっていると考えられる。
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