哺乳類の中枢神経系では切断された軸索は再生しないというカハール(1928)の説が信じられてきたが、最近になって脳でも神経の再生が起こりうることが報告されるようになった。しかし、脳での再生現象の多くは損傷されずに残った正常な神経の終末から側枝が発芽する広義の再生によるもので、この研究で問題とした狭義の再生とは異なる。 1982年に我々は4週齢のマウスの下丘交連の切断すると、3週間後には両側の下丘に向かって交連線維の再生が起ることを形態学的に確認した。今回は聴覚中枢損傷後の機能的な回復に関する基礎的な情報を得ることを目的として、再生した神経線維が再びシナプスを形成するかどうか、もしシナプスが再形成された場合には、その機能的性質は正常なシナプスと比べてどのような違いがあるのかという点について、微小電極法により、単一ニューロンの応答を記録し、神経生理学的に検討した。その結果、次のことがわかった。 1.切断された交連線維は再生し、ターゲットである下丘で再びシナプスを形成する。 2.再形成されたシナプスの機能的性質については、音刺激に対する応答を抑制するもの(約60%)、加算的なもの(約10%)、同定できなかったもの(約30%)に分類できた。これらの比率は正常群と比べて僅かに異なっていた。 3.抑制性シナプスが認められたことから、再生した交連線維が下丘に存在する介在ニューロンにも結合することを示している。 4.再形成されるシナプスは正常群と比べて下丘の比較的表層に分布することが、下丘ニューロンの最適周波数の分布から認められた。 以上の結果に基づいて、シナプス・レベルの機能的回復を細胞内記録により、さらに詳細に検討する計画である。
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