研究概要 |
前年度に開発した嚥下圧自動解析システムをもとに,本年度は嚥下圧測定によって得られるパラメ-タの基準化をはかり,嚥下動態の定性的ならびに定量的解析法の確立を目指した。 (1)嚥下圧生成機構に関する研究:嚥下第II期(咽頭期)には食道入口部が適切な時期に,適切な時間をもって開大する必要がある。これを嚥下圧測定の面よりみると,食道入口部内圧は静止時に陽圧を呈し,嚥下時に平圧化し,嚥下が終ると再び陽圧化する(食道上部括扼機構)。この食道上部括扼機構の詳細をヒト正常者およびイヌを用いて検討した。その結果,食道入口部の平圧化は先ず同部下端にはじまり,一方再陽圧化は同部上端にはじまった。したがって,平圧化持続時間は食道入口部上端で最も短く,下端で最も長かった。食道入口部の平圧化機構を筋電図学的検索,喉頭挙上実験,筋切断実験により検討したところ,輪状咽頭筋が主役を演じていることが明らかになった。 (2)嚥下圧測定法の規準化に関する研究:嚥下圧測定によって得られる嚥下圧曲線法,嚥下圧波伝搬曲線法,食道入口部平圧化機構の規準化をはかった。嚥下圧曲線法では,軽微な嚥下障害は圧亢進型を,中等度以上の嚥下障害では圧低下型を示し,嚥下動態を総合的に評価できた。嚥下圧波伝搬曲線法では,伝搬速度は軟口蓋でやや緩徐,中下咽頭で急峻,食道入口部で再び緩徐なS字型曲線を示した。このS字型曲線から偏位する時には嚥下中枢におけるプログラミングの異常が示唆された。食道入口部平圧化時点と平圧持続時間は部位によって異なるが,平圧開始が舌滑上筋群の筋活動開始より100msec以上遅れている場合,または平圧持続時間が500msec以内の場合は食道入口部の弛緩異常が示唆された。 (3)結論:以上の結果より,嚥下圧測定法の診断的意義が確立され,治療手段選択基準の確立も可能となってきた。
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