研究概要 |
網膜剥離の発生に抵抗する網膜接着の生体内測定法は確立され,家兎生体内網膜接着力は(1.8±0.2)×10^2dyn/cmであることは前年度までに明らかとなった。この網膜接着力を増強あるいは損う因子の研究が次の目標となった。網膜光凝固術,網膜冷凍凝固術,網膜ジアテルミ-凝固術の各種網膜凝固術および炭酸脱水酵素阻割剤アセタゾラミドの静脈内投与の効果を検討した。網膜光凝固は220%,網膜冷凍凝固は215%,網膜ジアテルミ-凝固は280%の接着力増強効果を示し,これら凝固法による瘢痕形成が十分網膜剥離の予防に有効であることが確認された。アセタゾラミドは20%網膜接着力を増強した。このことは網膜接着力は網膜色素上皮の代謝作用にも依存していることを示唆する。 家兎眼で,網膜剥離および網膜製孔を作製し,その状態から増殖性硝子体網膜症を発生させることは困難であった。困難の最大の理由は,家兎網膜が無血管であることと考えられた。家兎眼に作られた大きな網膜剥離はその維持が極めて困難であった。剥離部網膜は数日で壊死に陥り,やがてphagooyteに貧食され,硝子体腔により一掃されてしまい,臨床的に見られる増殖性硝子体網膜症に近似した状態を生ぜしめることはできなかった。すでにある線維芽細胞を硝子体腔に注入する方法より優れたモデルとするためには一層の努力が必要であろう。一方,眼虚血によって網膜色素上皮が増殖する現象は,再現性にも優れていることが判った。網膜神経細胞の変性壊死に伴う二次的な変化ではないかという疑問はぬぐい切れないが,眼虚血が増殖性硝子体網膜症に関与していることを示唆する所見であろう。眼虚血が網膜色素上皮の増殖を促すメカニズムと,化学的因子の検索を含め追求するのが今後の課題である。
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