上皮性腫瘍の浸潤過程で重要な形態学的変化のひとつは上皮基底膜の消失である。研究代表者は口腔粘膜上皮の高度異形成や低分化癌でしばしば基底膜部のラミニンが欠失することを認めた(第76回日本病理学会総会(1987年)で発表)。今回は唾液腺腫瘍および歯原性腫瘍における上皮基底膜の局在性をラミニン及びIV型コラゲン、免疫組織化学的検出によってしらべ、腫瘍の悪性度との関連を検出した。 1.唾液腺腫瘍:正常唾液腺では腺房及び導管の周囲にラミニン及びIV型コラゲン陽性の基底膜の連続的な囲繞が認められた。良性腫瘍(Warthin腫瘍、粘表皮腫の一部等)では腫瘍実質を囲んで連続性のラミニン、IV型コラゲンの陽性像がみられたが、陽性反応の程度は一定ではなかった。多形性腺腫では増殖上皮に沿ってラミニン、IV型コラゲンが種々の程度に陽性、又は部分的に陰性であった。充実性増殖を示し、悪性化蛍光を思わせる多形性腺腫ではしばしば胞巣周囲の基底膜の部分的消失を生じていた。腺様曩胞癌ではいっんに篩状構造の明らかな例では基底部にラミニン、IV型コラゲンの局在が明瞭で、びまん性の細胞増殖からなる例ではそれが不明瞭であった。腺房細胞癌では胞巣周囲の基底膜が部分的に陽性であった。未分化腺癌では基底膜はしばしば不明瞭ないし部分的な消失を示した。 2.歯原性腫瘍:定型的なエナメル上皮腫では胞巣周囲にラミニン、IV型コラゲン陽性の明瞭な基底膜が連続的にみられた。悪性化蛍光を伴うエナメル上皮腫では胞巣周囲の腺状の基底膜形態は失われ、腫瘍実質と間質との境界は著しく不明瞭となるこがあった。 唾液腺腫瘍の歯原性腫瘍ともラミニン、IV型コラゲンの局在で示される基底膜の形態および分布は鑑別診断上有益な情報であると同時に腫瘍の悪性度を反映するものであることが示唆された。
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