唾液腺腫瘍と歯原性腫瘍の浸潤性ないし悪性傾向の増大に関連した上皮基底膜の形態的変化をラミニン、IV型コラゲンおよびフィブロネクチンの免疫組織化学的局在の面から検索した。今年度は特に多形性腺腫の実質-間質間の状態、腺様嚢胞癌の悪性度の異なる各型、および悪性傾向を伴うエナメル上皮腫等に関連した基底膜の形態および基底膜物質の分布を重点的に観察した。結果:多形性腺腫では実質胞巣(被膜内浸潤部を含む)を囲む基底膜は種々の程度の不連続性を示した。粘液腫様部、軟骨様部では基底膜物質の絮状ないし無定形の陽性反応を伴っていた。悪性傾向を伴う多形性腺腫では充実性増殖部に不定形、小塊状ないし点状の基底膜物質が認められた。腺様嚢胞癌では篩状腔内の基底膜の蓄積、充実型における胞巣縁の基底膜の菲薄化と実質内の小塊状、点状の基底膜物質等がみられた。低分化型の粘表皮腫や腺癌は胞巣を囲む基底膜の菲薄化や部分的欠失を示した。悪性傾向を伴うエナメル上皮腫は胞巣周囲の基底膜の断裂や、実質細胞間に分散する点状ないし線維状の基底膜を示した。 総括:1.腫瘍の実質胞巣を囲む基底膜の菲薄化と部分的消失は腫瘍の浸潤性の増大に関連していることが多い。2.一部の腫瘍では上皮-結合織間の基底膜の形成は障害されていても、腫瘍細胞の基底膜物質産生能は保たれている。3.腺様嚢胞癌の組織パタ-ンは悪性度と相関するが、それはまた、基底膜の産生状態とも関連している。4.筋上皮細胞の関与する腫瘍では基底膜の部分的消失がある一方、間質部への基底膜物質の蓄積がある。5.腫瘍の実質-間質間の境界が不明瞭な場合は真の浸潤性の反映であることもあるが、間質の増殖活性の増大によると思われる場合もあり、後者では基本的に基底膜の形成能は保持されており、必ずしも浸潤性の増大を意味するものではない。
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