研究概要 |
ヒトのセメント質は歯根象牙質の表層にあり,歯周靱帯を介して歯を顎骨に固定する役を担っており、この構造についてあるいはセメント質形成について多くのことが知られているが歯根形成時のセメント質の動態および生理的機構など不明な点が多い。食性が異なるとセメント質の役割も多様性を帯びてくる。草食動物においては一般に歯冠にもセメント質が存在し、しかも持続的に増殖が認められているがこの機構も不明である。今年度はヒトのセメント質の部位、年齢による違い、特に歯根形成期の状態について観察しセメント質の石灰化像とその中のシャーピー線維束がセメント表面に直角に入り込みその間を層状にセメント質が増生されている像を得た。またウシの歯の歯冠セメント質を歯胚の時、萌出時、そして機能歯についてセメント質の発生や分布さらにはエナメル質との接着機構について観察した。歯胚の咬頭頂付近のエナメル質表面にセメント質が形成されている像があり、また、まったく歯冠セメント質がみられない切片も存在したことから機能歯での歯冠セメント質の分布に関連していると考えられる。萌出中の歯の歯冠セメント質は口腔内に露出されている部分は石灰化球が明瞭であるのに対し、歯肉に覆われている部分の表面は吸収像がみられた。このことから萌出時にはセメント質の改造が盛んであると考えられた。機能歯におけるセメント質の分布は頬舌面の中央部に特に多くエナメル質に近い部分は細胞を含んだ第2セメント質であり、表層には一層の原生セメント質が歯根表面から連続して存在していた。エナメル質とセメント質の接着はエナメル表面の小窩に対応したセメント質の小隆起が存在することから機械的結合が保たれていると考えられた。咬合面の裂溝に存在するセメント質はハーバース管状の小腔が多く骨様構造を呈していた。
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