歯冠セメント質の発生とエナメル質との接着機構さらには持続的増殖機構について主に走査型電顕と透過型電顕を用いて観察した。当所には牛と羊(反芻偶蹄目)について観察する予定で計画を進めていたが牛と羊の間でも種々の相異が認められたので馬(奇蹄目)についても観察した結果、両者間にさらに著しい差異がみられた。 エナメル質面に形成される歯冠セメント質の発生は牛の歯胚を用い観察した。エナメル質形成終了後に縮合エナメル上皮が変性・崩壊していく時にエナメル上皮間の結合が切れ歯小嚢間葉細胞が進入しエナメル質表面に結合繊が接触し、セメント質成形が開始される。この時期の歯小嚢内には脈管系の発達が良く、この血管を取り込む様にしてセメント質を形成していた。牛の場合、発生時には冠周セメント質と裂溝を埋めるセメント質は一連のものであるが機能歯においては咬耗・摩耗により連続性を失い裂溝内を埋める充填セメント質は本来の機能である咀嚼作用の効果を高めるため深い裂溝内に充満しており、その中心部は直径100〜300μmの太い血管が走りこれから分枝して細動脈となりエナメル質と接する面では洞様血管の様相を呈し、セメント芽細胞も多く骨に極めて類似していた。そして、血管を核とした同心円状の石灰化像やセメント細胞が変性して空隙となったところに石灰化像がみられた。 馬の場合はこの様な構造の充填セメント質は存在せず冠周セメント質が連続性を保ち歯冠全体を被履しており、シャ-ピ-線維がセメント質の表面からセメントエナメル境まで全層を貫いていた。 歯冠セメント質のエナメル質との結合様式は馬の場合はエナメル質表面を吸収して複雑な陥入を示すのに対し、牛の場合は規則正しく配列したエナメル質表面の小窩にセメント質が指交した状態で結合していた。
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