目的と方法:ヒトのセメント質は口腔内に露出されると表面の細胞や線維の変性、プラ-ク由来の物質が奥深く侵入し病的な状態にある。 一方、草食動物の歯冠セメント質は病的変化を示さず持続的に増殖し歯冠咬合面をひき臼状に凸凹不正にし食餌の磨砕効果を高めている。この歯冠セメント質について昭和63年度には牛の機能歯について検索し、平成元年度はその発生と比較解剖学的に検討するため馬と羊について観察した。特に光顕主体から走査電顕と透過電顕の所見を追加し立体構造と微細構造からその生理的増殖機構を検索した。 結果:1.歯冠セメント質のエナメル質との結合様式は動物により著しく異なり、牛ではエナメル質表面に広がる直径約4μmの窪みがセメント質面にある同じ直径の半球状の突起と指交した状態であり、馬ではエナメル質表面が不規則に吸収し波状の陥凹部を作り、ここにセメント質が入り込んでいた。2.冠周セメント質は多くのシャ-ピ-線維が全層に渡って貫いており、セメント質は周期性のある層板構造をなしており、萌出時に歯肉、歯根膜の中にあるセメント芽細胞によって作られていた。3.裂溝を埋める充填セメント質は牛や羊では発生時には冠周セメント質と連続しているが機能歯では咬耗により孤立していた。中心部には200μm前後の太い血管があり、セメントエナメル境に向って直径約30μmの細動脈が分枝し、セメント芽細胞も多い。血管を核とした石灰化像も多くみられ、また、セメント細胞の一部は変性し細胞の入っていた小腔は空胞化してこの空隙に多数の細菌が観察され、これらを取り込む様に石灰化が進行していた。4.歯冠セメント質の発生は歯根を取り巻く一般的なセメント質形成とほとんど同様でエナメル質表面に接した歯小嚢間葉細胞から分化したセメント芽細胞が形成していた。
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