研究概要 |
近交系の老化促進モデルマウスを用いて歯牙および歯周組織の加齢変化を検索した。SAMは遺伝的な老化促進と老化アミロイド症のモデルとして開発されたもので、いくつかの亜系統があるが当教室では対照群としてSAMーR/1(Senescence accelerated mouseーresistant/1)および実験群としてSAMーP/2(〃ーprone/2)を継代維持している。SAMの切歯には加齢に伴い、エナメル質橙赤色の消失、エナメル質低形成、破折などの種々の形態異常がみられ、これらの発生頻度および程度はP/2がR/1より高く、発生時期もP/2が早かッた(Gerodontol.1987)。 歯周組織に関してはSAMの飼育条件を固形飼料(CEー2、日本クレア)と水道水の自由摂取、conventional飼育とし実験を行った。さらし骨を実体顕微鏡下に観察すると、第3大臼歯は加齢と共に脱落し、この頻度は13カ月齢以降15%となった。また、加齢と共に歯槽骨の退縮がみられ、この程度はP/2でR/1より高度であった。しかし、歯垢の沈着はなく、ヒトでみられるような慢性の辺緑性歯周炎はみられなかった(J Dent Res,1990))。これらの原因は臼歯の特続的な萌出によるみかけ上の歯槽骨の退縮、咬合性外傷、歯肉炎などであると思われた(岩医大歯誌,1990)。 種々の月齢のSAMで臼歯の根尖部セメント幅を測定して推定した臼歯の萌出の程度は1カ月齢以降老齢群に至るまでP/2がR/1より高度であった。一方、酢酸鉛法で硬組織形成能を測定すると切歯においては4から6カ月齢群まで象牙質形成量がP/2よりR/1高度であった(in preparation)。以上の結果からP/2に何等かのセメント質、象牙質形成促進因子が内在するのでまないかと考えられた。SAMのP系に活動性の低下、脱毛、白内障脊柱湾曲などの老化現象が早期に出現するとこを考え合わせると非常に興味深い現象とを思われる。 SAMーP/2を用いて、アミロイド(AS_<SAM>)の口腔の沈着部位、加齢に伴う沈着量の変化を検索したところ臼歯の歯肉の上皮下に大量のアミロイドが沈着した(J Oral Pathol Med,1990)。 第1大臼歯近心側の歯肉を顕微鏡下に観察すると老齢群で長い付着上皮が頻繁にみられた。統計的に観察するとSAMの両系統で付着上皮が長くなること、歯肉溝の深さは変化しないこと、歯肉溝の高さが減少することが示された特に付着上皮の長さについては月齢との相関が顕著である、相関係数はR/1が0.84、P/2が0.92であった。また、6カ月齢以降はいずれの値もP/2がR/1より、高度であったがどの月齢群でも有意の差は認められなかった(in preparation)。現在、SAMーR/1を用いて長い歯上皮の電顕的な研究を行っている。SAMの研究から、ヒトでも歯垢がなく辺縁性歯周炎がみられない状態で、加齢に伴なって付着上皮が長くなる可能性も示唆される。
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