本研究の目的は、細胞診で推定診断を行うための確実な細胞採取法の確立と、鑑別診断を目的とした細胞像の検討にあった。 前者に関しては簡便なディスポーザブル型の細胞吸引器の開発とその使用法の確立が計画され、満足する結果が得られた。本器は従来のディスポーザブル注射筒を使用する方法と比べ、1.小型で患者の恐怖心が少ない。2.前準備が簡単である。3.細胞の採取量が多い。また針生検器具を改良したために、4.組織塊として採取されることも多く種々の標本作製法が利用できるなどの特徴を持ち、実際の臨床面だけでなく、動物実験においても充分利用価値があることが実証された。しかし術者によって若干細胞採取量に違いがあるため今後は本器の手技の普及を計画したい。後者については、唾液腺腫瘍を主体に穿刺吸引された細胞の疾患別観察とデータ処理が行われ、各々の腫瘍の特徴的な細胞像、鑑別すべき疾患とその鑑別法についてチャートを作製し日常業務に応用している。また腫瘍別に順次学会発表を行い、現在も続行中である。このチャートを使用すれば唾液腺腫瘍のほぼ80%が推定診断可能であった。ただし腺リンパ腫を除いた他の単形性腫瘍など少数例も含まれるため今後も症例を増やし検討する必要がある。唾液腺以外の疾患例えば顎骨内腫瘍、頸部腫瘤などから採取された細胞についても検討を行ったが、若干の歯原性腫瘍や嚢胞、転移性癌、悪性リンパ腫などに効果があった。これらは一括して発表の予定である。免疫組織化学的手法も数種の唾液腺腫瘍細胞塊や嚢胞内容液に応用したが、節状構造の鑑別やplasmacytoid cellの識別あるいは腫瘍細胞の検出に有効であった。しかし組織起源に言及できる所見には乏しかった。これは抗体の数に比して検体が少ないためで多数の標本を作る必要があり、今後の課題といえる。免疫電顕についても例数が少なく同様である。
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