本研究は免疫組織化学的手法を用いて歯胚基底膜構成成分の組成とその超微局在、ならびにこれの代謝について検索し、基底膜の歯牙形成における意義を検討する。その結果、以下のことが明らかになった。 1.歯胚発育端部には内琺瑯上皮と外琺瑯が観察でき、基底膜により、それぞれ歯乳頭、歯嚢と境界される。内琺瑯上皮基底膜は明層、暗層そしてこれに付着する微細な線維より成る。この線維はその長さと分布密度を徐徐に増し、特異な線維層を形成する。I、III、IV、そしてV型の各コラ-ゲン抗体、およびラミニン抗体で免疫染色すると、基底膜付着の線維層にはI、IIIおよびV型局在せず、IV型コラ-ゲンとラミニンが局在することが示される。そして、これら素材の供給には琺瑯上皮の他に、歯乳頭細胞の関与が示唆される。 2.分化期琺瑯芽細胞は遠心端から小突起を出し基底膜を貫く、と同時に細胞内に深く不規則な陥凹を形成する。これは多数の被覆小窩を伴う。免疫一酵素組織化学の二重染色を施すと、これらの中にIV型コラ-ゲンの反応産物が局在し、周囲の細胞質には、酸性ホスファタ-ゼ活性陽性顆粒が多数出現していることが分かる。これは、琺瑯質の形成に先立ち、同細胞が基底膜と線維層を積極的に吸収・消化することを示唆している。 3.成熟期に入ると、再び、琺瑯質表面と細胞の間に基底膜様構造が出現する。さらに、歯牙の萌出後、やはり、琺瑯質表面と付着上皮の間に同様の構造が出現する。これらには、ラミニンの局在が示唆されるものの、IV型コラ-ゲンは局在しないことが示唆される。この点については、さらに検討が必要と思われる。 今後の展望として、上記以外の基底膜構成成分の局在、並びに基底膜分解系におけるコラ-ゲナ-ゼ等の局在に関して、より一層の検索が望まれる。
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