自然齲蝕病巣の高石灰化層には、形態、方向の事なる大小さまざまな結晶が分布しているが、再石灰化実験の高石灰化層には、輪郭の鋭利な大きな多角形や六角形の結晶で占められている。両者の形態の相違は、昨年報告したX線回折の結果に一致する。再石灰化実験の高石灰化層の結晶の001面の大きさを計測したところ、平均最大厚径524.2Å、平均最大幅径836.3Åであった。また、対照部の結晶の大きさは、平均最大厚径275.9Å、平均最大幅径477.6Å、脱灰部の結晶の大きさは、平均最大厚径426.9Å、平均最大幅径667.7Åであり、高石灰化層の結晶は、両者よりかなり大きくなっている。また、興味あることに脱灰部の結晶は、対照部の結晶より大きくなっており、脱灰部でも結晶成長が起こっていることが示唆されたが、この現象は自然齲蝕病巣の脱灰部でも同様の結果が得られた。再石灰化実験の結果から、脱灰琺瑯質の再石灰化は、新生結晶の形成と成長、既存結晶の再生長によって進行するといえる。その進行により、既存結晶は修復され、新生結晶と共に成長し、互いに融合しつつ、大きな六角形結晶に発展していく。結晶の融合部には、刃状転位、1/3格子ずれ、小角粒界、などが高頻度で発現するが、これらの欠陥部も時と共に改善されることが期待される。また、融合部の微小領域電子線回折像は、電顕像の格子欠陥を示す不規則なスポットが観察された。 なお、歯頚部の白亜質、象牙質齲蝕病巣について、同様の実験と観察を行なう予定である。
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