再石灰化実験に際して見られる高石灰化層内には、微小領域X線回折により、フルオロアパタイトの形成が認められたが、自然齲蝕病巣の高石灰化層にはそれが認められなかった。また、高分解能電子顕微鏡により両者の脱灰層および再石灰化層を観察したところ、自然齲蝕病巣脱灰層の結晶には、辺縁に大小の欠損を形成しているものや横断面中央に穿孔をもつもの、また溶解がいわゆるダ-クラインのところで止まっているものなどが観察された。一方、実験的脱灰層の結晶は、中央穿孔像がより多く認められた。穿孔周囲にバ-ガ-ス回路を描くと、ともに格子欠陥が存在していた。 再石灰化実験の脱灰層と再石灰化層との移行部では、溶け残った本来の結晶の再成長および結晶間隙や穿孔内に新たに形成された六角形の小さな結晶の出現が観察された。また、自然齲蝕病巣の高石灰化層には、形態や方向の異なる大小さまざまな結晶が分布していたが、再石灰化実験のそこには、輪郭が鋭利で、比較的均一の大きさを示す多角形や六角形の結晶で占められていた。再石灰化実験の高石灰化層の結晶の(001)面の大きさを計測したところ、対照部および脱灰部のものより厚径、幅径共にかなり大きくなっていた。また、脱灰部の結晶は、対照部の結晶より大きくなっており、脱灰部でも結晶成長が起こっていることが示唆されたが、同様の結果が自然齲蝕病巣の脱灰部でも得られた。再石灰化実験の結果から、脱灰琺瑯質の再石灰化は、新生結晶の形成と成長および既存結晶の再生長によって進行し、その結果、既存結晶は修復されるとともに新生結晶と互いに融合しつつ、大きな六角形結晶に発展していく。結晶の融合部には、刃状転位、1/3格子ずれ、小角粒界、などが高頻度で発現するが、これらの欠陥部も時と共に改善される。
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