昭和61・62年に「人為的な歯の移動時における歯根膜血管網の立体的観察」の研究課題で歯の水平移動、歯の圧下時における歯根膜血管網及び歯槽骨の変化について研究業績を報告した。昭和63年、平成元年度には同様の課題で科学研究費を得て、人為的に咬合を挙上して咬合性外傷を起こさせ、それに伴う歯根膜血管網、歯槽骨の変化についての研究と、人為的に歯を挺出させ、それに伴う歯根膜血管網、歯根膜線維と歯槽骨の変化について実験を行ない、その成果を研究成果報告書として報告した。これら一連の歯の移動における歯根膜血管網、歯槽骨の研究によって次のことが明らかになった。すなわち、歯のあらゆる移動に伴う骨吸収には直接性と穿下性の2様式の吸収形態があり、その際には必ず歯根膜の血管網が存在し、血管がない部位では骨吸収は起こらないこと(直接は破骨細胞によって行なわれる)、すなわち歯根膜血管網が消失しない程度の力が加わった部位には血管網が残存し、骨吸収は表面から吸収されていく直接性骨吸収が生じる。一方圧迫側で強い力を受けた部位では歯根膜血管網に血管消失部が生じ、歯槽骨は表面から吸収されず歯は移動できない。このような時に歯槽骨は骨髄側から吸収されていく穿下性骨吸収の様式をとり、骨髄中の血管に後押しされるように内から吸収されていく。いずれにしろ血管の存在が絶対必要であることが示された。同時に歯根膜中の線維のturn overの時間は、他の組織の線維に比べ極めて短いといわれ、このような代謝活性が高いことから、歯根膜が過剰な咬合圧等によって損傷を受けても、再生と治癒を引き出す高い能力を持つものと考えられる。その源の一つが歯根膜血管網の存在であることが示唆された。今回で歯の移動と歯根膜血管網および歯槽骨の研究は終るが、歯周組織の血管網には更に深く発展させなければならない問題を残しており、後日それらを研究したいと考えている。
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