われわれの教室では血管内に合成樹脂を注入して血管鋳型標本をつくり、その微細血管構築を走査型電子顕微鏡で立体的に検索する、いわゆる血管鋳型法を用いて口腔付近の血管系を研究してきた。この際、注入した樹脂を硬化させる方法として、1)熱重合2)硬化剤による化学重合が用いられてきたが、この他に硬化剤を加えないで重合させる方法として、3)放射線重合が考えられる。この方法では動物ー個体の血管鋳型標本の作成が可能であると思われたので、昭和63年・平成元年度の科学研究費を得て、放射線重合によるレジン重合を応用した抜歯創の新生血管について実験、観察を行なった。その結果、1.放射線によるレジン重合の実験では、コバルト60(Coー60)を用い、照射時間は2時間で合計2×10^6rの線量を照射すれば良いことがわかった。その他の放射線ではレジン重合時にむらが生じた。2.この結果を抜歯創の治癒時における新生血管の研究に応用し、その成果を研究成果報告書で提出したが、実用化の過程でいくつかの問題点が浮び上がった。血管内に合成樹脂を注入する場合には、生理食塩水等を注入する普通の注入ポンプが使用でき、注入圧は血圧の圧力で時間をかけて注入することができ、同時に注入準備に伴う周囲組織への損傷が少なく、注入時に発生する樹脂の血管外への漏れもほとんど生じなかった。Coー60照射によって注入された体内の樹脂は充分に硬化し、硬化後の弾性も充分であった。しかしながら組織を溶解して血管鋳型だけとする時に、強酸、強アルカリを使用しても溶解することが困難であった。それはCoー60照射によって組織内のタンパクが変性し、耐酸・アルカリ性を増したものと推察される。この点だけが問題で、しかも最も重要な点であり、今後も引き続き決解していかなければならないと考えている。
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