歯牙のウナメル質は基本的にはエナメル小柱とその間を埋める小柱間エナメル質ができている。このエナメル小柱のエナメル質中での配列は歯種や動物種あるいは一本の歯牙でもその部分によって多様である。エナメル小柱の形成に一義的に責任を負っているのはエナメル芽細胞であり、この細胞の動的な過程が小柱配列物の決定に重要な役割を演じていると考えられる。エナメル芽細胞の動的な要素のひとつとして、細胞体の両端に存在する微細線維束に注目しこの性質について調べた。成熟ラット切歯の根端部を、液体窒素で凍結し、クリオスタットで凍結切片を作製した。切片は無固定のまま、あるいは3.7%バラフォルムアルデヒドで固定し、ミオシン、トロポオミン、α-アクチニンに対する抗体まちはローダミンファロイジンで染色し、それらのエナメル芽細胞内の局在を調べた。この結果これらのタンバク質が微細線維束中に存在することが明らかとなった。さらに、これら収縮タンバク質よりなる微細線維束の配列パターンと分泌との関係を知るために、微小管阻害剤であるコルセミドを1mg/KAの割合で腹腔内投与し1時間後または2時間後に潅流固定により固定した。下顎切歯を取りだし5%EDTA脱灰の後凍結切片を作製し、ローダミンファロイジンで染色し、そのアクチンパターンより、エナメル芽細胞微細線維束の配列パターンの変化を調べた。この結果特に遠位部の線維束の部位では、その配列にやや乱れが生ずるものの、明快な結論は未だにだすことができない。原因として考えられることは、薬物処理の時間が短いために、検出するのに十分な変化が起こらないということかも知れない。全く違うタイプの分泌阻害剤であるツニカマイシン、モネンシンを用いて、分泌・エナメル質形成とエナメル芽細胞内微細線維束パターンとの関係を調べることが必要となる。
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