歯牙のエナメル質は基本的にはエナメル小柱とその間をうめる小柱間エナメル質からできている。このエナメル小柱のエナメル質中での配列は動物種や歯種あるいは1本の歯牙でもその部分によって多様である。本研究はこのエナメル小柱の複雑な配列が、エナメル芽細胞のいかなる要因によって形成されるかを調べる目的で計画された。前年度までに達成されたことは、エナメル芽細胞の中にはアクチン、ミオシン、トロポミオシン、α-アクチニンから成る微細線維束が存在し電子顕微鏡的にはストレスファイバ-に類似し、収縮性であることが推測される。一方微小管阻害剤であるコルセミドは、この微細線維束パタ-ンを乱すことがわかっており、これをアクチンパタ-ンをモニタ-することによって蛍光顕微鏡的に調べた。その結果アクチンパタ-ンは乱れたが、予想された程の規模のものではなかった。従って微小管と微細線維束の直接の相互作用または微小管阻害から由来する分泌阻害によっても生じるエナメル芽細胞層に働く外的な力の変化、いずれの原因でも、微細線維束パタ-ンの変化は小規模なものにであると結論された。そこでエナメル芽細胞層に働く力をより直接的に調べるために、エナメル芽細胞層の一部を機械的に破壊してその後の微細線維束パタ-ンをロ-ダミン・ファロイジン染色でF-アクチンをモニタ-することによって調べた。この結果機械的にエナメル芽細胞層の一部を破壊してもその周囲のエナメル芽細胞の微細線維束パタ-ンは基本的に変化しなかった。このことはエナメル芽細胞に加わっていると考えられる外力の影響下に微細線維束パタ-ンが決められているわけではなく、このパタ-ンを決めている要因は細胞自身に存在していることを示唆する。この結果はエナメル芽細胞内の微細線維束がエナメル芽細胞の側方移動とエナメル小柱の複雑な走行の形成に深く関与するという仮説を支持する。
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