炎症に伴う疼痛は警告徴候を示しながら進行する一連の防衛反応と考えられる炎症反応の重要な症状である。一般に痛覚伝達をその主な役割とする一次求心性線維は、末梢では毛細血管周辺にも高密度分布しており中枢への痛覚伝達のみならず炎症反応のもっとも特徴的な組織反応である毛細血管の循環動態の変化(血流量の変動)に直接的に関与している可能性が示唆されている。本研究の最終目的は、口腔領域での炎症反応(歯周炎、歯髄炎等)への末梢知覚神経の関与を明らかにすることにより炎症発現機序を解明することであるが、本年度は、炎症時の毛細血管の循環変動が比較的観察され易い後肢足蹠を用い、非観血的に(レーザー組織血流量計により)末梢知覚神経の毛細血管の対する影響(血流量 血管透過性)を検討した。〔実験方法〕実験は、SD系雄性ラット(120g前後)を用いアルクロニウムで不動化、人工呼吸下で行った。末梢知覚神経の刺激として座骨、伏在神経の電気刺激(10V、2Hz、1msec auration 30秒間)を行った。〔結果ならびに考察〕座骨、伏在神経の刺激により著明な血流量の増加が観察された。またこれに伴い血圧の上昇も観察された。知覚神経の中枢端(脊髄側)を急性的に切断することにより、血流量は、電気刺激に伴い一過性の下降が発現しそれに続いて上昇が認められた。血圧には変化が認められなかった。神経切断時、非切断時のいずれの場合も電気刺激に伴う血流量の変化は交感神経遮断薬(αーblocker、βーblocker)および副交感神経遮断薬(atropin)により影響を受けなかった。電気刺激に伴う血流量の増加はサブスタンスP(SP)の桔抗薬であるスパンタイドにより有意に抑制された。以上の結果は、一次求心性線維の末梢端はSPを介して毛細血管の血流量の調節に重要な働きを行っていることを示唆している。
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